2 台 の ピアノ と 打楽器 の ため の ソナタ

Féminin:このバルトークのソナタ、昔から好きなんでしょ?

Masculin:ええ。ほら最初はあのオーディオフェアに持ち込んだエラートのラベック姉妹のLP。高校の頃に聴いて以来病みつきで。

F:録音が凄く良かったのよね。最弱音のピアノの序奏に続く懸垂シンバルの最強音で皆飛び上がるって…。

M:貴女もビックリしたでしょ(笑)。

F:あぁ、そうだわ!初めて貴方のお家に行った時だったでしょ?まさかあんなイタズラすると思わなかったから油断してたわ…。

M:フフッ、当時家に来る人の通過儀礼みたいなものだったんですよ。でも皆さん大体同じ反応なんだけど、同級生で一人だけびくともしない無反応な男がいたんですよ。

F:鈍感なの?それとも音痴…。

M:どちらかって云えば前者でしたね。まあ芸術文化全般に疎い奴で…。

F:そういう人ってある意味幸せなのかもね。それからコンサートにも誘ってくれたでしょ?この曲の…。

M:えぇ、'96年の夏前だったかなぁ、浜離宮朝日ホールで。これと同じ編成の「魔法使いの弟子」と室内楽版「動物の謝肉祭」で。国内で活躍中の精鋭メンバーで、なかなか愉しい会でした…。

F:ねえ、聴きたかったんだけどまだ何処にも出かける気持ちになれない頃だったの。あの人送って2年足らずだったし…。

M:ええ、それは承知してました。駄目元でお誘いしたんですし。

F:父からも出かけたらどうだって云われたんだけど…。それに貴方と二人きりでお逢いするのもちょっとまだ…。喪に服してたわけじゃないけど…。

M:でも翌年くらいからはまたあちこちご一緒するようになりましたからね。ところでこの曲、アルゲリッチは大好きらしいんですよ。これが3度目の録音ですからね。‘84年には来日公演でも演奏してました。打楽器は吉原すみれと山口泰範のお二人で。

F:前にもフレイレと協奏曲版も録音してるでしょ、それを含めて?

M:ハイ、その前にもソナタの方録音してるんです。第2ピアノは当時のパートナーのスティーブン・コヴァセヴィチで。そうそう、協奏曲版で指揮してたデイヴィッド・ジンマンが面白い話をしてたんですよ、バルトークについて…。

F:何なのかしら?

M:ジンマンが小さい頃NYで暮らしてて、近所に変な音のする家があって、幼いデイヴィッド少年を含む子供たちがそこの壁に石を投げたんだそうです。すると痩せた初老の男が飛び出して来て英語じゃない言葉で喚き立てたんでみんな慌てて蜘蛛の子を散らすように逃げたと。その後NYを離れ、音楽家になってから戻りその家の前を通りかかったら「ベーラ・バルトークの住んだ家」のプレートが掛かっていて愕然としたんですって(笑)。

F:へえ~、大変なことしちゃってたのねぇ!指揮するのに気が咎めたでしょうねえ…。そう言えば貴方のお母様がアルゲリッチのことを「ピアノの小母さん」て呼んでらしたのよね(笑)。

M:ええ、全く自分の方がずっと年上だったのに(苦笑)。

F:親しみを感じてらしたんでしょ…。一度もコンサートにお連れしなかったの?

M:'00年の春にチケット取ったんですけどキャンセルで、払い戻して一緒に銀座のPへ食事に行っちゃいました。で秋に来た時は僕一人で。

F:それじゃ結局お母様にタカったんでしょ?いつもながらズルいのね…。ところでこのCDの打楽器のペーター・ザードロも聴いたんでしょ?

M:えぇ、'03年の秋、トッパンホールで自作を含む打楽器リサイタルだったんですけど、いや圧倒的でしたよ。チェリビダッケのミュンヘン・フィルに物凄いティンパニストがいるって噂は聞いてたんですけど想像以上でした。その30年も前のツトム・ヤマシタ以来の衝撃で。

F:このCDの「マ・メール・ロワ」「スペイン狂詩曲」の編曲も手掛けてるのよね。さすがにオケには色彩の豊かさで及ばないのは当然だけど、ちょうどジャケットのパウル・クレーの絵みたいな印象よね。切り詰めた造形と色彩で。バルトークも含めて。お座なりでないこういうアートワークは納得ね…。

M:流石のお見立て!リサイタルでも打楽器の技巧をとことん追究した自作があったんですけど、ここでもユニークな編曲ですよね。数年前に夭折したのが惜しまれます。またつい数日前、フレイレが体調不良でアルゲリッチともどもショパンコンクールの審査員を降りるって報道があったんですよ…。

F:う〜ん、心配ねえ…。昔から知ってる音楽家が少なくなるのは一番辛いわ。たとえそれが世の習いでも…。

11.02追記。R.I.P.Nelson Freire

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登録情報

  • Is Discontinued By Manufacturer ‏ : ‎ いいえ
  • 製品サイズ ‏ : ‎ 14.2 x 1 x 12.5 cm; 80 g
  • メーカー ‏ : ‎ ユニバーサル ミュージック
  • EAN ‏ : ‎ 4988005885111
  • 時間 ‏ : ‎ 49 分
  • レーベル ‏ : ‎ ユニバーサル ミュージック
  • ASIN ‏ : ‎ B00VXMUJZU
  • ディスク枚数 ‏ : ‎ 1

  • Amazon 売れ筋ランキング: - 312,650位ミュージック (ミュージックの売れ筋ランキングを見る)
    • - 3,723位現代音楽
    • - 12,721位室内楽・器楽曲
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2009年2月23日に日本でレビュー済み

バルトークが1977年5月10-11日、ロンドン、ワトフォード、それ以外が1977年5月21、23日ロンドン、ウェンブリーで録音。アルゲリッチは1985年8月22-23日、アムステルダム、コンセルトヘボウで、アルゲリッチ(1941年・アルゼンチン)とフレイレ(1944年・ブラジル)という二人による組み合わせで『2台のピアノと打楽器・管弦楽のための協奏曲』を録音していて、『姉妹』と呼ばれる2曲を別々のパートナーを選択して弾いたことになる。

ここで競演しているスティーヴン・ビショップ・コワセヴッチは1940年10月17日、ロサンゼルス生まれなのでアルゲリッチより1つ年上と言うことになる。明るさのあるコワセヴッチのピアノはとても上品でなかなかステキだ。バルトーク以外の選曲も面白く、ピアノ・デュオの色々な側面を愉しませてくれる。

しかし、デュオを弾いている時のアルゲリッチはいつも何故こんなに嬉しそうなのだろう。音楽の歓びをデュオの中に発見したかのようだ。